007 ジェームズ・ボンドとバイク
「ジェームズ・ボンド“の”バイク」ではなく、「ジェームズ・ボンド“と”バイク」にしたのは理由がある。
ジェームズ・ボンドは普段バイクに乗らないし持っていない。
彼自身が乗るのは、ピアース・ブロスナンが「ゴールデンアイ」で敵の傭兵から奪った Cagiva (カジバ)のオフロードタイプW16と、「トゥモロー・ネバー・ダイ」で二人乗りした「BMW R1200」、そしてダニエル・クレイグが「慰めの報酬」「スカイフォール」で乗っていたメーカー不明のトライアルおよびオフロードタイプくらいであろう。例外として、番外編の「ネバー・セイ・ネバー・アゲイン」が挙げられる。
そこで、敵味方かかわらず、ボンドに縁のあるバイクで好きなものを選んだ。
ヤマハXT500 YAMAHA (ユア・アイズ・オンリー)
1976年にホンダの「XL」シリーズに対抗すべくヤマハが送り出した世界戦略オフローダー。
「ユア・アイズ・オンリー」では悪役ロックの部下が、ピンスパイクタイヤを履き、ゲレンデやボブスレーコースを信じられないスタントテクニックで走り回った。
後の名車「SR」の基となるSOHC 400/500ccのエンジンを積み、まだモノクロサスを備えてはいないものの足つき性が良いわりにはサスのストロークもたっぷりとってあり、乗りやすさと戦闘力を兼ね備えたオフローダーだった。
ほとんど同じデザインの排気量違いで、XT125,XT200,XT250,XT400,XT500,XT550 がずらっとラインナップしており、日本では排気量の都合で200ccと250ccがよく売れた。XT250は映画「ランボー1」でもチェリーレッドのXT250が登場し、ランボーが乗り回している(映画内で排気音は2ストに吹き替えられている)。
その後、オフロードバイクの流行は、4ストから2スト200cc超に移り変わっていった。
それでもXTはマイナーチェンジしながら生き長らえ、XT200はセローに、XT250はTT250へと進化していった。
XT500は大ロングセラーとなった「SR」や「セロー」のベースとなったバイクでもあるので歴史的にも意義深いモデルであった。 今でもXT250のノーマルを大切に乗っている人をたまに見かける。
映画に使われたのはXT250という説もあったが、アップにすると500の文字が見える。
ウィンカーがひっくり返って、マシンガンになるというギミックが面白かった。
あんなにたくさんの弾はどこに入っているの? ウインカーの向きが変わらずに発射してしまったら自分が撃たれるのか?? タイヤ交換の際に血だらけにならないのか???・・・(笑)
黒いメットと服装、そしてこのピンスパイクタイヤ・・・
こんなんでスキー場を走ったらさぞかし楽しいだろう。。。
とは言っても、このスタントで1人亡くなったそうなので、命がけの撮影だったのであろう
結局私はこのバイクに影響を受け、18歳でヤマハ「MR50」という、XT500と同じようなデザインの2スト50ccバイクを購入。 その後、中型免許をとり、ヤマハDT200WR、ホンダXLR200、スズキDjebel250XCと、オフロードバイクにのめりこむきっかけとなった。
ヤマハ XJ650 Turbo YAMAHA(ネバーセイ・ネバー・アゲイン)
イオン・プロ製作ではない番外編007映画、「ネバー・セイ・ネバー・アゲイン」で復帰した老体ショーン・コネリーのボンドに、少ない予算でQ課から支給されたバイクだ。
1980年台に入って、各社がバイクでもターボ化を競っていたが、1981年に東京モーターショウで出品された同モデルがほぼそのまま1982年に市販された。
エンジンは空冷4サイクルDOHC4バルブ並列4気筒。インジェクションではなく、レスポンスを重視しキャブレターを採用。タービンをクランクケースの後方に配置し90馬力を発生した。
メーター中央には電気式ブースト計を配置し、各インジケーターにはカラー液晶が採用された。
しかし、映画で使われた「XJ650TURBO」は、ほぼ原型が留められていないほどの改造が施されていた。
サスペンションストロークがかなり深くとられ、、ホイールはオフロードのワイヤースポークタイプに、タイヤはオフロード用のブロックタイプ(XT500のリア用か?)にそれぞれ変換されていた。
カウルもワンオフのオリジナルに付け替えられ、ブラックの塗装にシルバーのラインが入っていた。
まるで後のホンダの大型オフロード車「アフリカツイン」のような風貌となっていた。
これは映画内で階段を駆け上がったり、ロケット噴射で大ジャンプをしたりと、ノーマル仕様ではとても無理だったのであろう。
これだけ改造しても、その重量のためか、ジャンプの着地などでカウルがバラバラに砕けているのが映っている。
シャフトドライブで車重が重く、しかもリアがドラムブレーキと、現代のバイクと比較するとあまりにも危ない仕様。乗りこなせるのはボンドだけかもしれない。
新情報:ヤマハ XT550改 (ネバー・セイ・ネバー・アゲイン)
※映画内の「XJ650Turbo改」に新情報がありました
映画内のバイクは、「XJ650Turbo」のサス、タイヤ、マフラーなど大幅な改造をしたものと見られていたが、海外のサイトの英文の投稿などにより、1982~83年に海外で販売されていた「XT550」(上記画像)に、「XJ650Turbo」用のXJの角目ライトとそのカウルを取付けたものである可能性が高いことが判明した。
「XT550」は、上でも紹介した「ユア・アイズ・オンリー」で使われた「XT500」よりは若干設計が新しいため、日本国内でも販売された「XT400」や「XT200」「XT125」に近いエンデューロ的なスタイルになっている。
確かに、「XJ650Turbo」に原型を留めないような大改造を施すより、こちらのほうがサスのストロークが深く、車重は遥かに軽いので、単純に映画内の性能(階段の上り下りや大ジャンプなど)を出せる。映画内でフロントブレーキがシングルディスク+ドラム式という奇妙なスペック(下の画像)だったのも納得(もしかしたらシングルディスクは飾りかもしれない)。
もちろん単気筒の550ccなので、パワーや排気音の質は「XJ650Turbo」のなめらかな4気筒DOHCとは全く違うが、そこは撮影手法や排気音の吹き替えで何とでもなったのであろう。
「XT650 Turbo」のほうは、やはりターボ化はコスト面などで無理があったようで、その後すぐにターボが外され「XJ750D」としてしばらく販売されてカタログから消えた。