007ジェームズボンドのスキー
スクリーンのジェームズ・ボンドが主に愛用したスキー板は、70年代から80年代に一世を風靡したアメリカのOLIN SKIS(オーリン)である。
使用スキーのブランド・品名まで詳しく描写があるのは1981年公開の「ユア・アイズ・オンリー」だけである。ビンディングはチロリアの360RD、ブーツはガルモントが使用されていた。
「ユア・アイズ・オンリー」では上記画像の「OLIN MARK Ⅵ」の競技用のSL(スラローム)モデルが何度もアップで登場した。SLモデルはゴンドラ内やジャンプ台の順番待ちの時に腕にかかえていたもので、実際の高速でのハードなアクションには長いDH(ダウンヒル)モデルが使用された。
これには理由がある。当時普通のスキーは滑走面の中央に、直進安定性を良くするために縦に溝が入っていた。しかし、OLINのSLモデルは珍しく滑走面がフラットで、直進性よりも回転性を重視しており、これがヒットにつながった。しかしボブスレーコースやゲレンデ内の高速チェイスでは直進性が重要でDHモデルを使用したのである。恐らく長さも違うであろう。
こんなゲレンデスキーヤーの格好をしているボンドに、ジャンプコースのスタート係のおじさんが真面目にスタートの合図を振るのが笑えた。
ボンドがブーツを「ガシャン、ガシャン」と踵をビンディングに入れる時に初めて目を丸くしてイタリア語で何か言うのだが、吉本風に言えば、いわゆるノリツッコミ!
(※ジャンプ用のビンディングはつま先のみをはめる)
当時は今と違い、200cm前後の板が主流の時代。身長185cmのロジャー・ムーアが抱えても頭より長いサイズだった。今のカービングスキーが170cm前後が主流ということを考えるとちょっと面白い。
「007美しき獲物たち」では、タイトルバック前のアクションシーンで、同じくOLINの950と思われるスキーが登場する。
当時、アルペンスキー界はヨーロッパブランドが全盛だった中で、アメリカのメイヤー兄弟の活躍により「K2」「OLIN」のアメリカンブランドが飛躍を遂げた。
その中でもOLINは、ジェームズ・ボンド効果もあり、富裕層のハイクラス向けの高級板として世界的に成功した。
日本ではダイワ精工が総代理店としてOLINは販売された。
OLINは一部の専門店しか置いてなく、皆喜んで定価で買っていた。
「OLIN MARK Ⅵ」や「MARK Ⅶ」「MARK Ⅹ」 を持つことは、ステイタスの証だったのだ。
1990年代に入ると、バブル崩壊の影響によるスキー人口の急激な減少により、同社は国内向けのOLINブランド自体をモーグル専用に切り替えて再起を図ったが、お世辞にもセンスがいいとは言えない奇妙なデザインにより、ゲレンデには茶髪・ロン毛で安いOLINを履いた若者が出没し、従来のエグゼクティブなOLINファンは離れていってしまった。
その後OLINはK2に吸収される形となり、スキー事業の総代理店としては日本から撤退。日本の某量販店のPBブランドとして細々と続いている。
ジェームズ・ボンドが使用したブランド品の多くは、現在でも世界中で成功をおさめているが、オーリンのファンにとって残念な結末となった。
ロジャー・ムーアが履いていたのは、イタリアのガルモント社のブーツ。
正式なモデルは不明だが、左のカタログは1979年のものなので、この頃のモデルであろう。
但し、ムーアが履いていたのは普通の4バックルのタイプだった。
この「ガルモント」は、日本では正式に発売されていなかったように思う。
アメリカの「HANSON(ハンソン)」あたりが採用 されても良さそうだが、ブーツは露出が少なく宣伝にならないので、恐らく現地のイタリアで調達したのであろう。
ちなみにハンソンもダイワ精工が買収し、オーリン同様にブランドは消滅。現在はゼビオスポーツが安物製品にそのブランドを使っている。
「美しき獲物たち」(A View To A Kill)の冒頭シーン。
OLINのマークと、MARKシリーズではない角ばったロゴが確認できる。
左は2003年に、OLINのブランドを使ってK2が製造したカービングスキー。
日本には並行輸入で神田のスキーショップなどで15,000円程度で安売りされていた。
163cmが中心で入荷していたので、ビギナーや女性用だと思う。黒か紺か赤で、170cm超のものであれば私も買っていただろう。
これは私が所有するOLIN MARK Ⅴ。色違いの2ペア。まだ新品時のビニールも剥がしていないデッドストックなので、007ファンにとっては少しは価値があるかもしれない。
何故、こんなものを2ペアも??・・・ 理由がある!
近い将来、ワインレッドのロータス・エスプリ・ターボを買って、ハッチバックに2ペアのOLINを並べて、1人でスキーリゾート地に行くことが夢だったからである。まだこの夢は捨てていない!!
できればコルチナ・ダンペッツォか、シルト・ホルンに行きたい!!!
「スキー板2ペアをリアに斜め置き」というのは、「女王陛下の007」でボンドが結婚するトレーシーが映画内で颯爽と乗り回していた、1969年製の赤いフォード・マーキュリー・クーガー・ コンバーチブルもそうだった。もっともこのクルマはソフトトップなので、ここしかキャリアの設置ができない。もちろん映画用にワンオフ製作したのであろう。
日本では、マツダ・ロードスター用にこのようなスキーキャリアが販売されていた記憶がある。
高速道路の風圧で、板が後ろに吹っ飛ばないものかと心配だった。
スキーエリアにおけるジェームズ・ボンドのファッション
さて、スキーリゾートにおけるボンドのファッションは地味だ。
もちろん、スパイだからあまりに目立つ恰好をするわけはないのだが・・・
ロジャー・ムーアのボンドの、スカイブルーのジャケットに黒いパンツ、白いアンダータートル、黒のストライプのニット帽(今は無き「イカ帽」?)に黒の無地のゴーグル。この印象が強い。
ウェアはドイツのアルペンスキー界では有名なボグナー社の提供。この会社の創業者は、ボンド映画の専属スキースタントのウィリー・ボグナーJrの父親という経緯がある。
ウェアのジッパーに大きく"B"と入っているのは、ボンドのBではなく社名の刻印。
余談だが、横にいるリン・ホリー・ジョンソンのウエスタンスタイルはとてもかわいい。
彼女は元プロスケーターだけあって、スタント無しでショートスキーを器用に使い、バレエ・スキーをしていた。個人的には大好きな女優だった。
ボンドのスキーウェアが、ブルーのイメージが強いのは、「女王陛下の007」のジョージ・レーゼンビーのウェアの印象が強いのかもしれない。
この画像は、ブロフェルドの部下がスキーでジャンプしてきたところを、自分のスキー板のエッジ部分で思いきりラリアートを食らわせて失神させるとう、むごいながらも痛快なシーン(笑)。
この映画内のボンドのウェアやスキー用具は、ブロフェルドの部下から奪ったものなので、ボンドファッションと言うことはできないが、この映画のスキーシーンは実に見事だった。
原作にはない脚色として、片足スキーのスキーチェイスが実に緊迫感とスリリングさを演出していた。
用具の発達した現代では、片足スキーは上級者ならそう難しくは無い。
しかしこの当時はヘロヘロの革ブーツに曲がらない長い板。
ブーツはスケート靴に毛の生えた程度の強度しかなかった。
ちょっとでも後傾になると暴走してバランスがとれない。私も小学生の頃によくスキー場に行ったが、革靴で苦労した経験がある。 その中で、あの高速チェイスは観ている私も手に汗を握った。
この映画のスキーチェイスがリアルなのは、ボンドは決してプロでも難しいようなアクロバテッィックな芸当を見せない。ボンドも不恰好に転倒を繰り返しながら何とか山頂から街まで逃げ延びるのである。
当時は両足のスキーをそろえて、強い外向傾姿勢(五木ひろしのコブシの格好といえばわかりやすいか)をとり、スキーをズラし回すのが流行のスタイルだった。当然ながら「カービング」などというコトバは存在していなかった。
原作のボンドは、「もしも転倒したら捕らえられて死を意味する」ことから、不恰好に両スキーを開き、高速ターンにもバランスを崩さないことを最優先させていた。
恐怖感から無意識に歯で食いしばったバンダナがボロボロになっていたという描写が印層的であった。
私もボンドを真似て、普段はこのようなファッションでスキーをしている。
ギリギリ、ダサくない範囲であろうか? ブルーのウェアはサロモンだ。
さすがに板はOLINではないが、昔のMARKシリーズのデザインでカービングスキーが出たら、迷わず買うであろう。
これまた余談だが、1981年公開でケン・ウォール主演の「ザ・ソルジャー」(The Soldier)は主人公のスパイがロジャー・ムーアのボンドとほぼ同じファッションで登場する。
「ユア・アイズ・オンリー」より製作が1年ほど遅いので、何らかの影響を与えたのであろうか?
主役が手にしているスキーは赤の「OLIN MARK Ⅳ」。
ボンドの「MARK Ⅵ」よりグレードが低いのは予算の都合か??
スキーチェイスはまさに過去のボンド映画のモノマネ。ジャンプしてヘリコプターターンを切りながらマシンガンで敵をやっつける(笑)
B級アクション映画なのだが、なかなかよくできており、悪役の怪優クラウス・キンスキー(ナスターシャ・キンスキーの父親)の存在感があった。
左は「私を愛したスパイ」のロジャー・ムーア。
このスキーアクションも当時は随分話題になった。子供の頃は興奮したが、今見るとちょっと・・・ ボンドが「ムーンサルト」ばりのバックジャンプを決め、最後にユニオンジャックのパラシュートとは・・・
この映画で使われたスキーは、白いロシニョール。先端のマークしか映っていないのでモデルは不明だ。
右は「ワールド・イズ・ノット・イナフ」でのピアース・ブロスナン。
この映画は、個人的にはあまり心に残っていないので特にコメントはない。
(強いて言えば、熟女と化したソフィー・マルソーか?)