007 ジェームズ・ボンドの銃
1.ハンドガン編 原作のボンドの拳銃は 「Beretta M418」
小説のボンド、映画のボンド、両方のジェームズ・ボンドに縁のある銃を並べてみた。
■画像上の左より
①ワルサーPPK 7.65mm
②ベレッタ1934 25口径(6.35mm)
③ベレッタポケット "Reopordo"
④ワルサーP99
⑤ワルサーPPK 7.65mm MARKⅡ (そのマガジンクリップと火薬を抜いた合法的な実弾)
画像2枚目
■追加画像の上より
⑥ワルサーPPS 9mm
⑦ワルサーPPK/S 9mm(指紋認証システム付きグリップ)
②と③については解説が必要だ。
イアン・フレミング原作のボンドが最初に使用していたと思われる「ベレッタM1919」または「ベレッタM418」は、婦人用の小型ピストルで非常に威力が弱い。後にアメリカの寸法規制により、ハンドバッグに入るような小型サイズの銃の販売ができなくなった(そのためにPPKもPPK/Sに変更)こともあり、実銃も流通量が極めて少なく不人気なモデルであった。もちろんこのモデルガンなどは存在しない。
画像の「ベレッタポケット "Reopordo"」は1967年に日本が誇るMGCから1,980円で発売された金属製のモデルガンで、ベレッタM1919や418、M950あたりをモデルにして作られた架空の銃である。しかしサイズや形状など非常にうまく作られており、原作のボンドを知る上でも貴重なモデルガンだ。
⑦は2012年末に公開されたシリーズ23作目に、若返った"Q"から支給された9mmの「ワルサーPPK/S」。グリップの形状が特殊なのは指紋認証システムが付いているため。
このグリップ・・・欲しいですねぇ。
ベレッタM1934は、記念すべき映画第一作目「ドクター・ノオ」(公開当時は「007は殺しの番号」)で、"M"に「ジャケットを脱げ」「まだベレッタを使っとるのかね?ワルサーを使いたまえ」。
この時にショーン・コネリー扮するボンドがしぶしぶ机に出すのがこのM1934(またはM1935)。
このシーンの基となったのは、フレミングの原作「ロシアより愛をこめて」であった。
原作のボンドのベレッタが何であるかまでは求められていないので、急ごしらえで調達したのだろう。M1934は7.65mm口径でイタリアの正式軍用拳銃でもあったのでMがバカにするような性能の銃ではない。PPKに勝るとも劣らない性能だ。
因みにこの映画で、ボンドがデント教授を暗殺する際に使用していたのは、PPKでもベレッタでもなく、ブローニングM1910だった。他のシーンでもワルサーPPやコルト45(クラブーキイ島でドラゴン戦車に向かって撃つ時に、なぜか突然PPKからコルトに変わっているシーンがある)などが使用され、これも撮影上のスケジュールの前後によりつじつまが合わなくなってしまった事が理由であろう。
④のワルサーP99は、こうして見るとその大きさとゴツさに違和感がある。
スパイは特殊部隊や警察とは違い、いつも戦地にいるわけではない。
小説のボンドは、銃の携帯性・隠匿性を第一に考えている表現がいくつもあり、威力よりもいかに上着の下にこっそりと忍ばせるかを重視している。P99はボンド映画では、1997年の「トゥモロー・ネバー・ダイ」からピアース・ブロスナンのボンド(ダニエル・クレイグのボンドが「カジノ・ロワイヤル」の冒頭のみ使用)が使用していた。
小説のボンドを知るファンは、「007がこんな銃を使うわけがない」と違和感をおぼえたことであろう。「トゥモロー・ネバー・ダイ」はワルサー社がスポンサーであったしがらみがあり、P99の宣伝を兼ねて、古いPPKを使わせるわけにはいかなかったからであろう。
その後、原点に立ち返った作品である映画「カジノ・ロワイヤル」ではしっかりPPKに戻っていたのが嬉しかった。
原作のボンド、つまりイアン・フレミングが銃に求めた携帯遂行性は、上の画像の「ベレッタポケット」のサイズであろう。原作では、やわらかい羊の革のホルスター、枕の下とあらゆるシーンでベレッタをしのばせて危機を救い、窮地で「手のひらで重みを感じ」ボンドの心を勇気づけている。
2011年に発売されたジェフリー・ディーヴァー(Jeffery Deaver)著の『007白紙委任状』(原題:CARTE BLANCHE)は、それまでのレイモンド・ベンソン著よりもかなりイアン・フレミングに近い作風で、ジェームズ・ボンドもさほど違和感なく現代に溶け込んでいる。
その中で新ジェームズ・ボンドが使用しているのは、2007年に発表されたワルサーの最新作である⑥の「ワルサーPPS」である。わかりやすく言うとP99の小型版といった感じで、口径9mm、8+1弾とP99と同じ性能ながら、全長を160mm,重量549g(P99は180mm,750g)と、PPKとほぼ同サイズにコンパクト化された。 また、P99では重かったトリガーが軽く改善され、よりグルーピングが良くなった。
PPKとベレッタポケットを並べてみると、Beretta M1919やM418がいかにコンパクトであったかがわかる。
マガジンの大きさも2/3程度である。MGCのモデルガンは実銃と同様の分解が楽しめるが、その操作性の良さと、部品点数が少ないためシンプルで故障しにくいのも魅力。
原作のボンドのベレッタは何か? を検証する
さて、原作のボンドの25口径(0.25インチ=6.35mm)のベレッタが一体何であるかは様々な解釈や諸説があるようである。しかしフレミング自身はあまり銃に詳しくなかったようで、海軍関係者の指摘によりPPKに変更させている。
時代背景や原作内のベレッタの少ない特徴の描写から、大きくは、M1919、M418、M1935のどれかという解釈が多いようである。
M1935とM1934はほぼ同じ型だが、口径はそれぞれM1934が9mm、1年後の開発のM1935は7.65mmなので、M1934/1935ともに外れる。しかもM1935はPPK/Sとほぼ同じ立派なサイズである。M1919の重量が300gに対して、M1934は660gとPPK(635g)よりも重い。このモデルはその後のアメリカの寸法規制とも関係なくその後も残った。原作中の「婦人用のバッグに入る」ようなサイズではない。
となると消去法でM1919かM418だが、ボンドは「携帯性を重視し、ベレッタのグリップを外してスケルトンにし、テープを巻いている」とある。ボンドは小さなベレッタをさらに薄く小さくする工夫をしている。
しかし、上のM1919の実銃の画像のように、このモデルはグリップ後ろにセーフティーがついている。これが、このモデルをボンドモデルと限定できない理由でもあった。
セーフティーがあるとテープを巻くことができないからだ。
25口径のM950ジェットファイアという説もあるが、1950年製造なので、1958年の小説「ドクター・ノオ」で「この銃を15年間愛用している」と言ったことから、時代背景と合わないことと、M950はマガジンリリースのボタンがグリップ上にあるため、グリップを外してテープを巻くことは絶対にできない。よってこのモデルは完全に外れる。
では、一体何なんだ??
ところが、M418は発売当初はセーフティーがついていなかったことがわかった。証拠となる画像はないものの、アメリカのWikipedia(英文)には、当初セーフティーがついていなかったことが明記されている。発売後、安全性の問題からすぐにセーフティーがついたらしい。
フレミングが取材したか、自身もしくは知人が持っていた銃がたまたまM418の初期タイプだったという可能性はある。M418は1919年から1950年代半ばまで製造されたので時代背景もピッタリだ。
またM1919と装弾数は同じものの、上下方向の寸法がM418のほうがかなりコンパクトのようだ。
以上の根拠から、やはり私はボンドモデルは「ベレッタ418」の初期タイプと結論付けるのが妥当であると考える。
私が所有しているPPK関係を並べてみた。
上から2番目が、アメリカの寸法規制に適合させるためにつくられたPPK/S。
7.65mmから9mmになり威力は増しているが、上下方向の寸法が長くなり、グリップの厚みもボッテリしている。かなり大きくなった印象で、実際に持っても全く別の銃という感じだ。
たまにPPK/Sをボンドモデルと紹介しているところがあるがあれは勘違い(※2012年公開「スカイフォール」でPPK/Sが使用されたので、現在ではボンドモデルとしても間違いではない)。
上から2番目のはインターアームズ社タイプの9mmのPPK。師匠のMARC氏からの頂きモノ。
メタルのブローバック音が物凄い。グルーピングも優れている。
原作のボンドが使用していたホルスターは、「羊革のやわらかいバーンズ・マーティン製」とある。
しかし、アメリカのバーンズ・マーティン社は当時、コルトなどのリボルバー向けのホルスターメーカーであり、PPKが入るタイプは実在していなかった。
これもイアン・フレミングがうっかりしていた点であろう。
しかし、その後ボンドが有名になってからは、バーンズ・マーティン社はちゃっかりPPK専用のトリプル・ドゥロー・ホルスターを市販した。
画像左は、バーンズ・マーティン社のPPK専用モデルをコピーした特注品である。
画像右は、映画「ドクター・ノオ」「ロシアから愛をこめて」「ゴールドフィンガー」でショーン・コネリーのボンドが着けていたネイビーブルーとベージュ革のツートンカラーのホルスターのコピー品。
「BARNS MARTIN TYPE」の刻印はご愛嬌。革の質や縫製、つくりは非常にしっかりしている。
同じPPKでも、製造年によってスライドの型、形状や、刻印の文字内容が異なる。
やはり「7.65mm」の刻印がないとジェームズ・ボンドを語れません。
第二次世界大戦前の古い設計なのだが、シンプルな機構、確かな性能、洗練されたデザインでその人気は衰えることがない。
2.ライフル AR7編
AR-7は1960年にフェアチャイルド社アーマライト部門が開発した自動小銃ライフル。映画の初登場が1963年の「ロシアより愛をこめて」だから、恐らく同社の宣伝を兼ねた採用であろう。
このライフルは、もともとは軍事用に戦闘機の狭いコックピット内でも場所をとらないよう、分解したバレル・マガジン・レシーバーをストックの中に収納させる目的で開発されたAR-5のアイデアが民生用に活かされたものであった。
コンパクトに収納できるというアイデアはスパイ映画にはもってこいである。
そのアイデアにブロッコリとサルツマンが飛びついたのかもしれないと想像できる。
もともと市販されたAR-7は全体が軽合金とABS樹脂でできており、ストックも樹脂のために水に浮くという特徴があった。
映画に登場したAR-7は木製ストックに見えるのだが、実は違うようだ。
当サイトに投稿いただいたアメリカ在住のKonaさんの情報によると、量産されたAR-7のストックは殆どがブラックであったが、007映画で採用されたものは希少な初期ロットのブラウン色の樹脂ストックだそうだ。
ズーム機能付きの小型暗視スコープはストック内に入らないが、それ以外はスッポリ収納される。
組立は初心者でも30秒もあれば十分である。はめこんで2ヶ所のダイヤルを回すだけである。
日本ではウエスタン・アームズ社から、この分解ギミックがそのままのモデルガンが発売されたが、残念ながらストックはABS樹脂タイプのモデルで、真っ黒のプラスチックだ。
モデルガンとはいえ、こんなに大きな木製ストックを採用したら価格がハネ上がるであろうし、そもそも収納部やハメ込み部分の形状が複雑なために、量産できなかったのであろう。
口径は22LRで、とても非力な銃だ。殺傷能力は必要最低限であろう。
シンプルさゆえに、軽量化と耐久性を両立させた。
映画内のボンドは、アタッシュケースの底鋲が画像のようなパイプになっており、その中にAR-7のカートを隠してあった。面白いギミックである。
ライフル編2 WALTHER WA2000
Walther WA 2000は、ドイツワルサー社のオートマチック式狙撃銃で、映画「リビング・デイライツ」でティモシー・ダルトンのボンドが、亡命者を援護するために狙撃者を逆狙撃するという設定で使用された。
----「銃がブルパップ方式のレイアウトになっており、バイポッドが銃身の上のフレームに繋がって銃身をぶら下げる構造になっているため、独特のシルエットを持っている。一般的に自動式の狙撃銃は精度が劣るとされるが、WA2000はボルトアクションの狙撃銃並みの命中精度をもち、H&K社のPSG-1と同様に高性能な狙撃銃として知られている。高精度な部品のみを使っているため、当時の価格で一丁が約7000ドルとあまりにも高価な上、本体だけで7kgの重さがあることから結局正式採用にはいたらなかった(採用されたのは似たコンセプトのH&K PSG-1)。そのためか高性能にもかかわらず注目されることが少なく、1985年から1989年までしか製造されなかった」 ----(Wikipediaより抜粋)
日本では、かつてはアサヒ・ファイヤー・アームズからオートマチックアクションを再現した電磁弁搭載のガスライフルが出ていたが、同社のライフルが実弾発射可能に改造できるなどの問題が起き、その後倒産したため入手困難である。またGENES(ゲネス)から20万円ほどのエアコッキングガンが出ていた。実射性能は低く、当然ながらマニア以外には売れずに絶版。
現在、唯一のWA2000タイプのエアガンはARES製のエアーコッキング式だ。WALTHER社刻印が入っているものの、オートマチックアクションが再現されていない。ARESは香港のメーカーで中身はマルイのVSR-10のコピーであるが、集弾性能は極めて低くアフターサービス体制も無し。モデルガンとして見るしかない。
WA2000は希少だがとても高性能なライフルなので、オートマチックでどこかのメーカーから商品化してほしいものだ(このようなモデルには命中精度など求めないし・・・)。
この映画でのダルトンの銃やライフルを扱う手つきは、関係者をもってして「尋常ではない」と言わしめたほどリアルであった。
この映画以前の刑事モノやスパイ映画では、主役が銃を扱う手つきはかなりいい加減で適当であった。具体的には、銃の持ち方、トリガーへの指のかけ方、基本姿勢、置き方などである。
当時のショーン・コネリー、ロジャー・ムーアなどは専門家から本格的な技術指導や訓練は受けておらず、その他のアクション映画同様に劇画チックでアバウトな撃ち方をしていた。
しかし、もともとブロードウェイ役者で演技には一切の妥協を許さないダルトンは、原作を十分に読み込み、専門家からのトレーニングを受けた結果、緊迫感のある名シーンが生まれた。
この映画以降、ピアース・ブロスナンやダニエル・クレイグも映画内で見事な銃の扱いを披露している。
「カジノロワイヤル」のこのシーンは、専門家のMARC TATS氏によると、“ホンマモン”の手つきだそうだ。
届けられたアストンマーチンとともにダッシュボードに入っていたワルサーP99のマガジンを外し、弾をの数をチェックし、さらにチャンバー内の残り弾を確認し、最後にマガジンを戻して内部ハンマーをデコッキングするという一連の作業だ。
小指でうまくマガジンを保持して、約5秒以内で流れるようになめらかにこの作業を終了している。
クレイグ自身もこのシーンのために相当練習を積んだのではないか?
決してハンサムとは言えず身長も高くないクレイグであるが、このシーンの頃には「彼こそボンド」と思えるから流石である。
素人目にはよくわからないかもしれないが、こういうちょっとした仕草が映画全体にリアリティを持たせている。ダルトンやクレイグの役者魂は見事である。